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法律の条文はe-Govの原文、改善基準告示は厚生労働省の告示全文とパンフレット、歩合給の残業代の計算は東京労働局の資料、判決は裁判所のサイトの判決文です。いずれも2026年9月24日に確認しています。この記事はタクシー(法人タクシーの乗務員)の話で、ハイヤーは拘束時間の決まりが別です。
「タクシーの36協定って、結局何時間まで残業させられるのか」「歩合給だと残業代は出ないのか」「給与明細の残業手当は正しいのか」。タクシーの仕事を考えている人や、いま乗務している人から、よく出てくる疑問です。
結論から言うと、タクシー運転手の残業には2つの上限がかかっています。1つは労働基準法の36協定の上限で、2024年4月1日からは特別条項をつけても年960時間まで。もう1つは厚生労働省の改善基準告示の拘束時間の上限で、日勤は1か月288時間、1日は最大15時間です。どちらか片方を守ればよいのではなく、両方を守る決まりになっています。
この記事では、36協定の仕組み、タクシーだけの年960時間の決まり、改善基準告示の数字、2つの関係、残業代の割増率、歩合給の残業代の計算、そして最高裁 令和2年3月30日判決の中身を、条文と判決文の原文で順に確かめます。

結論。タクシーの残業は「2つの上限」の内側
先に要点を並べます。理由と出典は、このあとの章で書きます。
- 36協定がないと、会社は原則として残業させられない。法定労働時間は1日8時間・週40時間で、これを超えて働かせるには36協定を結んで労働基準監督署に届け出る必要があります。
- タクシーの残業の上限は、特別条項をつけても年960時間。2024年4月1日からです。一般の業務の年720時間より240時間多く、月100時間未満などの決まりはタクシーには適用されません。
- 改善基準告示の拘束時間の上限も別にかかる。日勤は月288時間・1日最大15時間、隔日勤務は月262時間・2暦日22時間です。
- 残業は、この2つのうち先に当たるほうで止まる。36協定の範囲内でも、拘束時間の上限を超えることはできません。
- 残業代は25%以上の割増。月60時間を超えた部分は50%以上で、2023年4月からは中小企業にも適用されています。
- 歩合給にも残業代はある。計算は「歩合の総額÷総労働時間×0.25×時間外の時間」で、月給の1.25倍とは形が違います。
- 最高裁は令和2年3月30日に、売上から残業手当を差し引いて歩合給を出す仕組みについて「割増賃金が支払われたとはいえない」と判断しました。賃金の仕組みを一律に違法としたのではなく、その事案の賃金規則についての判断です。
旧版のこの記事と、統合した残業代の記事には、2024年4月の改正前の数字が残っていました。直した点は、記事の最後の「この記事で訂正したこと」にまとめています。
36協定とは。残業をさせるための労使の約束
労働時間の原則は1日8時間・週40時間
36協定の話の前に、労働時間の原則を確かめます。労働基準法32条は、次のように定めています。
「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」
休日は35条で、「毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」とされています。4週間を通じて4日以上の休日を与える場合は、毎週1回でなくてもかまいません。

タクシー会社も、ここは他の仕事と同じです。法人タクシーの乗務員は会社に雇われる労働者なので、この原則がそのままかかります。
36協定は労働基準法36条の協定
「36協定」は、労働基準法の36条にもとづく協定なので、こう呼ばれます。「サブロク協定」と読みます。36条1項の原文はこうです。
「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、(中略)その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。」
つまり、会社が残業や休日労働をさせるには、次の2つがそろっていなければなりません。
- 労働者の過半数で作る労働組合(なければ過半数を代表する人)と、書面で協定を結ぶ
- その協定を労働基準監督署に届け出る
厚生労働省のパンフレットも、「36(サブロク)協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません」と書いています。結んだ36協定は、「常時各作業場の見やすい場所へ掲示する等の方法によって、労働者に周知してください」とされています。自分の会社の36協定は、職場で見られるはずです。

36協定で決める5つのこと
36条2項は、協定で決める事項を5つ挙げています。
- 残業や休日労働をさせることができる労働者の範囲
- 対象期間(1年間に限る)
- 残業や休日労働をさせることができる場合
- 対象期間の1日・1か月・1年のそれぞれについて延ばせる時間、または休日労働の日数
- 残業と休日労働を適正にするために厚生労働省令で定める事項

職場に掲示された36協定を見るときは、4つめの「1日・1か月・1年で延ばせる時間」が、自分の残業の上限にあたる数字です。
タクシーの残業の上限は年960時間
一般の業務の上限を先に確かめる
36協定を結べば何時間でも残業させられる、というわけではありません。36条4項は、延ばせる時間の限度を「一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間」と決めています(1年単位の変形労働時間制で3か月を超える期間を定めた場合は、月42時間・年320時間)。これを限度時間と呼びます。
臨時に限度時間を超える必要がある場合は、「特別条項」をつけた36協定を結べます。ただし一般の業務では、36条5項と6項で次の上限があります。
- 特別条項をつけても1年720時間まで
- 休日労働を含めて1か月100時間未満
- 休日労働を含めて、2〜6か月の平均で80時間以内
- 月45時間を超えられるのは1年に6か月まで

タクシーは附則140条で年960時間
タクシーの運転の業務は、この一般の上限とは別の決まりになっています。労働基準法の附則140条1項は、「一般乗用旅客自動車運送事業」(タクシーのこと)の業務などについて、36条5項を読み替えて、特別条項で延ばせる時間を「一年について(中略)九百六十時間を超えない範囲内に限る」としています。
同じ条文で、36条6項の2号と3号(実際の残業と休日労働が月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内)は「適用しない」とされています。一般の業務にある「月45時間を超えられるのは年6か月まで」という書き方も、読み替え後の条文にはありません。
対象になる業務は、労働基準法施行規則の附則69条2項で「一般乗用旅客自動車運送事業の業務」などと定められています。

数字にすると、年960時間は12か月でならして月80時間です。一般の業務の720時間より240時間多く、比べると約1.3倍になります。限度時間の年360時間を超えられる幅は600時間です。
ただし限度時間の月45時間・年360時間は、タクシーにもそのままかかります。特別条項は、あくまで臨時の事情があるときのための決まりです。厚生労働省のパンフレットも、2024年4月1日からは自動車運転の業務にも36協定の指針が全面適用されるとして、「時間外労働及び休日労働は必要最小限にとどめられるべきであることに留意しましょう」と書いています。
一般の業務とタクシーの違い
| 決まり | 一般の業務 | タクシーの運転の業務 |
|---|---|---|
| 限度時間(原則) | 月45時間・年360時間 | 月45時間・年360時間 |
| 特別条項の年の上限 | 年720時間 | 年960時間 |
| 休日労働を含めて月100時間未満 | かかる | かからない |
| 2〜6か月の平均80時間以内 | かかる | かからない |
| 月45時間超は年6か月まで | かかる | かからない |
| 拘束時間の上限(改善基準告示) | なし | かかる(日勤は月288時間など) |

月100時間未満などの決まりがかからないぶん、タクシーには次の章の改善基準告示で、1日と1か月の拘束時間の上限がかかっています。
2024年3月31日までは上限そのものがなかった
附則140条2項は、2024年3月31日までの間、自動車運転の業務には36条の3項から5項(限度時間と特別条項の上限)と6項の2号・3号を「適用しない」としていました。一般の業務に残業の上限ができたのは2019年4月(中小企業は2020年4月)ですが、タクシーを含む自動車運転の業務は、2024年4月1日まで先送りされていたことになります。
旧版のこの記事は2020年に書かれたもので、「拘束時間の範囲内なら36協定で残業できる」と書いていました。当時の状態としてはそのとおりでしたが、2024年4月1日からは年960時間の上限も守らなければなりません。

タクシー会社が出す36協定届の様式
労働基準法施行規則の附則70条で、タクシーなど自動車運転の業務の人が含まれる36協定の届出は、専用の様式で出すことになっています。
- 様式第9号の3の4 → 限度時間(月45時間・年360時間)の範囲で協定するとき
- 様式第9号の3の5 → 特別条項をつけるとき(年960時間まで)
厚生労働省のパンフレットは、「自動車運転の業務について、令和6年4月1日から時間外労働の上限規制(1年960時間)が適用されることに伴い、36協定届の様式が改正されました」と書いています。職場で36協定を見るときは、どちらの様式かで特別条項の有無が分かります。

改善基準告示の拘束時間の上限
拘束時間と休息期間
タクシーの働く時間には、労働基準法とは別に、厚生労働省の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)がかかります。ここで使う言葉は2つです。
- 拘束時間 → 告示では「労働時間、休憩時間その他の使用者に拘束されている時間」。厚生労働省のポータルは「会社へ出社(始業)し、仕事を終えて会社から退社(終業)するまでの時間」と説明しています
- 休息期間 → 「使用者の拘束を受けない期間」。仕事が終わってから次の始業までの時間です

36協定の上限が「労働時間」で数えるのに対して、改善基準告示は休憩も含めた「拘束時間」で数えます。ここが2つの決まりのいちばん大きな違いです。
日勤の上限
告示の2条1項は、日勤(始業と終業が同じ日にある勤務)について次のように決めています。
「拘束時間は、一箇月について二百八十八時間を超えないものとすること。」「一日(始業時刻から起算して二十四時間をいう。以下同じ。)についての拘束時間は、十三時間を超えないものとし、当該拘束時間を延長する場合であっても、一日についての拘束時間の限度(以下「最大拘束時間」という。)は、十五時間とすること。」
| 項目 | 日勤の上限(2024年4月1日から) |
|---|---|
| 1か月の拘束時間 | 288時間(車庫待ち等は労使協定で300時間まで) |
| 1日の拘束時間 | 13時間。延長しても最大15時間 |
| 14時間を超える日 | できるだけ少なく。週3回までが目安 |
| 休息期間 | 継続11時間を基本とし、9時間を下回らない |
「1日」は暦の日付ではなく、始業から24時間で数えます。14時間超の回数について、厚生労働省のパンフレットは「1日の拘束時間14時間超は週3回までが目安です」と書いています。

隔日勤務の上限
隔日勤務は、告示の言葉では「始業及び終業の時刻が同一の日に属さない業務」です。朝に出庫して翌日の未明や朝に帰庫する、タクシーに多い働き方です。2条2項の決まりは次のとおりです。
| 項目 | 隔日勤務の上限(2024年4月1日から) |
|---|---|
| 1か月の拘束時間 | 262時間。地域的事情などがあれば労使協定で1年に6か月まで270時間 |
| 2暦日の拘束時間 | 22時間。かつ2回の隔日勤務の平均で21時間以内 |
| 休息期間 | 継続24時間を基本とし、22時間を下回らない |
隔日勤務の1か月262時間は、2024年4月の改正の前後で変わっていません。変わったのは2暦日の拘束時間と休息期間です。

日勤と隔日勤務の1日の流れや、どちらを選ぶかの考え方は、タクシー運転手の仕事内容となるまでの全体像の記事にまとめています。
2024年4月の改正で変わった数字
| 項目 | 2024年3月まで | 2024年4月1日から |
|---|---|---|
| 日勤 1か月の拘束時間 | 299時間 | 288時間 |
| 日勤 1日の拘束時間 | 13時間(最大16時間) | 13時間(最大15時間、14時間超は週3回までが目安) |
| 日勤 休息期間 | 継続8時間 | 継続11時間を基本・9時間を下回らない |
| 隔勤 1か月の拘束時間 | 262時間(270時間) | 262時間(労使協定で年6か月まで270時間) |
| 隔勤 2暦日の拘束時間 | 21時間 | 22時間、2回平均21時間 |
| 隔勤 休息期間 | 継続20時間 | 継続24時間を基本・22時間を下回らない |
日勤の月の上限は299時間から288時間へ11時間短くなり、1日の最大は16時間から15時間へ1時間短くなりました。休息期間は日勤も隔日勤務も長くなっています。

車庫待ち等の特例
告示には「車庫待ち等」の運転者について特例があります。駅や車庫で客を待つ時間が長い働き方のことで、要件を満たせば拘束時間を延ばせます。
- 日勤 → 労使協定で1か月300時間まで。次の要件をすべて満たせば1日の最大拘束時間の15時間を超えられる。勤務終了後に継続20時間以上の休息、1日の拘束が16時間を超えるのは月7回以内、18時間を超える日は夜間4時間以上の仮眠、1回の勤務の拘束は24時間以内
- 隔日勤務 → 1か月262時間で、労使協定で270時間まで。夜間4時間以上の仮眠を与え、22時間を超える回数を労使協定で月7回以内に定めれば、2暦日24時間まで、1か月はさらに10時間まで延ばせる

車庫待ち等の隔日勤務では、1か月の上限は262時間に10時間を足した272時間、労使協定があれば270時間に10時間を足した280時間までになります。車庫待ち等にあたるかどうかは会社と地域の事情で決まるので、自分の勤務が対象かは会社に確かめてください。
休日の長さと休日労働
休日の長さも決まっています。厚生労働省のパンフレットの原文はこうです。
「休日は、休息期間に24時間を加算して得た、連続した時間とします。ただし、いかなる場合であっても、その時間が30時間を下回ってはなりません。」「日勤勤務の場合は継続33時間(9時間+24時間)、隔日勤務の場合は継続46時間(22時間+24時間)を下回ることのないようにする必要があります。」
休日労働については、告示2条4項が「当該労働させる休日は二週間について一回を超えないものとし、当該休日の労働によって(中略)拘束時間及び最大拘束時間を超えないものとする」と定めています。

36協定と改善基準告示の関係
両方を守る。先に当たるほうが上限
ここまでの2つの決まりは、どういう関係なのでしょうか。厚生労働省のパンフレットは、36協定の説明のなかで次のように書いています。
「なお、自動車運転の業務については、時間外労働及び休日労働によって、改善基準告示の1日の最大拘束時間、1か月の拘束時間を超えてはなりません。」
つまり、36協定で「月に何時間まで残業できる」と決めていても、その残業で拘束時間の上限を超えることはできません。反対に、拘束時間の上限の内側でも、36協定で決めた時間を超えて残業させることはできません。2つの上限のうち、先に当たるほうが実際の上限になります。
| 36協定 | 改善基準告示 | |
|---|---|---|
| 何の上限か | 労働時間を延ばせる時間(残業) | 拘束時間と休息期間 |
| 数え方 | 休憩を除いた労働時間 | 休憩も含めた拘束時間 |
| タクシーの主な数字 | 月45時間・年360時間、特別条項で年960時間 | 日勤は月288時間・1日最大15時間、隔勤は月262時間・2暦日22時間 |
| 根拠 | 労働基準法36条・附則140条 | 厚生労働省の告示 |

日勤で拘束15時間の日は、残業は最大何時間か
例で考えます。日勤で1日の拘束時間が最大の15時間の日に、休憩が1時間だったとします。拘束時間から休憩と法定労働時間の8時間を引くと、15−1−8=6時間。この日にできる時間外は最大6時間です。

休憩が長ければ、その日の時間外はそのぶん減ります。また、この数え方は次に書く変形労働時間制を採っていない場合のものです。厚生労働省のパンフレットにも、最大拘束時間15時間、休憩1時間、法定労働時間8時間に分けた日勤の図が載っています。
1日8時間を超えたら、必ず残業になるか
旧版のこの記事は「タクシーは1日8時間を超えても週40時間までは残業にならない」と書いていました。これは、会社が1か月単位の変形労働時間制などを採っている場合に限った話です。
労働基準法32条の2は、労使協定か就業規則で「一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定め」をしたときは、決めた日に8時間を超えて働かせることができるとしています。この制度を採っていない会社では、1日8時間を超えた時間は時間外です。

タクシー会社のうち変形労働時間制を採る会社がどのくらいあるかの公的な統計は、見つけられませんでした。自分の会社がどちらかは、就業規則で確かめてください。
残業代の割増率
労働基準法37条は、残業(時間外労働)、休日労働、深夜労働に割増賃金を払うよう決めています。率は37条と割増賃金の率を定める政令で決まっています。
| 働き方 | 割増率 |
|---|---|
| 時間外労働 | 25%以上 |
| 時間外労働のうち月60時間を超えた部分 | 50%以上 |
| 法定休日の労働 | 35%以上 |
| 深夜(午後10時〜午前5時)の労働 | 25%以上 |
| 時間外が深夜に | 50%以上(25%+25%) |
| 月60時間超の時間外が深夜に | 75%以上(50%+25%) |
| 法定休日の労働が深夜に | 60%以上(35%+25%) |

月60時間を超えた部分の50%は、以前は大企業だけでした。厚生労働省のリーフレットは、2023年4月1日から「大企業、中小企業ともに50%」と書いています。タクシー会社の規模にかかわらず、いまは50%です。
同じリーフレットは、「月60時間の時間外労働時間の算定には、法定休日に行った労働時間は含まれませんが、それ以外の休日に行った労働時間は含まれます」とも書いています。なお、労使協定を結べば、60時間を超えた部分の引き上げ分の支払いに代えて有給の休暇を与える仕組み(代替休暇)もあります(37条3項)。
深夜の割増は、残業かどうかに関係なく、午後10時から午前5時の間に働けばつきます。夜に乗る日がある人は、給与明細の深夜手当の欄も見ておくとよいでしょう。
歩合給の残業代の計算
1時間あたりの賃金の出し方が月給と違う
タクシー運転手の給料には、売上に応じた歩合給が入っていることがよくあります。「歩合給だから残業代は出ない」と思う人もいますが、東京労働局の資料は「歩合給制であっても法定労働時間を超えて労働した場合は、その部分について割増賃金が必要です」とはっきり書いています。
違うのは、1時間あたりの賃金の出し方です。労働基準法施行規則19条1項は、こう決めています。
- 月給(4号)→ 「その金額を月における所定労働時間数(中略)で除した金額」
- 歩合給(6号)→ 「出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額」
- 固定給と歩合給の組み合わせ(7号)→ 「その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額」

月給は「所定労働時間」で割り、歩合給は残業した時間も含めた「総労働時間」で割ります。この違いが、次の計算に効いてきます。
東京労働局の計算例
東京労働局の資料「しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編」には、歩合給の割増賃金の計算例が載っています。原文の数字をそのまま並べます。
「ある月の実績給(歩合給)の合計が190,000円であった労働者が、その月に法定時間外労働18時間を含めて190時間労働していた場合」。総労働時間190時間の内訳は、法定内172時間と時間外18時間です。
- 190,000円÷190時間=1,000円 → 1時間あたりの賃金
- 1,000円×0.25=250円 → 1時間あたりの割増賃金
- 250円×18時間=4,500円 → その月の割増賃金
- 支払うべき賃金は190,000円+4,500円=194,500円

月給なら1.25倍、歩合給なら0.25倍
同じ1時間1,000円でも、月給の人が18時間残業すれば、1,000円×1.25=1,250円に18時間をかけて22,500円になります。歩合給の4,500円とは大きな差です。

理由は、歩合の190,000円のなかに、残業した18時間ぶんも含めた190時間の対価がすでに入っているからです。月給は所定労働時間の対価なので、残業した時間には1.0の本体と0.25の割増の両方を払います。歩合給は本体がもう払われているので、上乗せは0.25の部分だけになります。
月60時間を超えた部分は、歩合給でも割増率が50%以上になります(37条1項ただし書)。歩合給なら「1時間あたりの歩合×0.5×60時間を超えた時間」の形です。東京労働局の資料には歩合給の60時間超の計算例はないため、ここでは式の形だけ示します。
売上が同じで残業が増えると、どうなるか
東京労働局の計算の考え方を、そのまま別の例に当てはめます。歩合の総額が同じ190,000円のまま、時間外が28時間(総労働200時間)に増えた場合です。
- 190,000円÷200時間=950円
- 950円×0.25=237.5円
- 237.5円×28時間=6,650円
- 合計196,650円

時間外は10時間増えましたが、割増賃金は4,500円から6,650円へ、差は2,150円です。歩合給では、売上が増えないまま働く時間だけが延びると、1時間あたりの単価が下がります。長く乗ればそのぶん稼げる、とは限らない仕組みです。
固定給と歩合給の組み合わせ
基本給などの固定給と歩合給の両方がある場合は、施行規則19条1項7号のとおり、それぞれの部分で1時間あたりを出して足します。固定の部分は所定労働時間で割って1.25倍、歩合の部分は総労働時間で割って0.25倍、という考え方です。東京労働局の資料には組み合わせの具体的な計算例はないため、自分の給与で確かめるときは、固定の部分と歩合の部分を分けて見てください。
歩合給の人を守る決まり
歩合給で働く人には、残業代のほかにも守りの決まりがあります。
- 保障給 → 労働基準法27条は「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定めています
- 通常の賃金の6割以上 → 厚生労働省のパンフレットは、歩合給制度の場合「固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるもの」としています
- 累進歩合制度は廃止 → 売上が上がるほど歩合率が上がる仕組みは、「長時間労働やスピード違反を極端に誘発するおそれがあり、交通事故の発生も懸念されるため」廃止するものとされています

歩合給の種類(A型・B型・AB型)や保障給のくわしい中身は、タクシーの歩合と営収の仕組みの記事にまとめています。年収の相場はタクシー運転手の年収の記事で見られます。
最高裁 令和2年3月30日判決(いわゆる国際自動車事件)
どんな事件か
タクシーの残業代の話でよく出てくるのが、最高裁判所第一小法廷の令和2年3月30日の判決です。裁判所のサイトで公開されている基本情報は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事件番号 | 平成30(受)908 |
| 事件名 | 賃金請求事件 |
| 裁判年月日 | 令和2年3月30日 |
| 法廷 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 結果 | 破棄差戻 |
| 判例集 | 民集 第74巻3号549頁 |
| 原審 | 東京高等裁判所 平成29(ネ)1026、平成30年2月15日 |
争われたのは、タクシー乗務員の歩合給の計算の仕組みです。判決文によると、その会社の賃金規則は、売上(揚高)から計算した「対象額A」から、残業手当などの「割増金」と交通費相当額を差し引いて、歩合給を出す仕組みでした。対象額Aは、売上から控除額を引いた額に0.53や0.62をかけて計算するものです。
判決文は、この仕組みについて「揚高が同じであれば,時間外労働,休日労働及び深夜労働(中略)の有無やその時間数の多寡にかかわらず,原則として総賃金の額は同じとなる」と書いています。
数字で見るとこうなる
分かりやすいように、交通費を0として、対象額Aが300,000円の月で考えます(金額は説明のための例です)。
- 残業がなく割増金が0円なら、歩合給は300,000円。合計300,000円
- 残業して割増金が50,000円なら、歩合給は300,000円−50,000円=250,000円。合計は250,000円+50,000円=300,000円

名目上は割増金が払われていても、そのぶん歩合給が減るので、残業しても受け取る総額は変わりません。割増金が大きくなれば、歩合給が0円になることもあります。
最高裁の判断
裁判所のサイトの裁判要旨は、次のとおりです。
「歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがある賃金規則に基づいてされた残業手当等の支払につき,時間外労働等に伴い発生する残業手当等の額がそのまま歩合給の減額につながり,歩合給が0円となることもあるなど判示の事情の下では,これにより労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえない。」
判決文は、理由を次のように述べています。
「割増金の額がそのまま歩合給(1)の減額につながるという上記の仕組みは,当該揚高を得るに当たり生ずる割増賃金をその経費とみた上で,その全額をタクシー乗務員に負担させているに等しいものであって,前記(1)アで説示した労働基準法37条の趣旨に沿うものとはいい難い。」
「その実質において,出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を,時間外労働等がある場合には,その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものというべきである」
そのうえで、差し引かれた割増金は「割増賃金に当たらず,通常の労働時間の賃金に当たるもの」として、支払うべき割増賃金の額を計算し直すよう、事件を東京高等裁判所に差し戻しました。判決は「裁判官全員一致の意見」です。

この判決から言えること、言えないこと
判決は、決まった計算方法以外で残業代を払うこと自体を否定したわけではありません。判決文は「労働基準法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではない」と書いています。
そのうえで、払ったと言えるためには「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要」で、判断には「当該手当の名称や算定方法だけでなく(中略)当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならない」としています。
つまり、この判決はその事案の賃金規則について「割増賃金が支払われたとはいえない」と判断したものです。タクシー会社の歩合給の仕組みをすべて違法としたわけではありません。売上から残業代を差し引いて歩合を減らす仕組みは、この判決の考え方では割増賃金を払ったことにならない可能性がありますが、自分の会社に当てはまるかどうかは、その会社の賃金規則の中身で決まります。
自分の残業代を確かめる手順
ここまでの内容を、自分の職場で確かめるための順番にまとめます。
- 36協定 → 職場に掲示された36協定で、1日・1か月・1年に延ばせる時間と、特別条項の有無を見る
- 就業規則 → 1か月単位の変形労働時間制を採っているかを見る。採っていなければ1日8時間を超えた時間は時間外
- 賃金規則 → 歩合の計算式を見る。売上から残業手当を差し引く形になっていないか
- 給与明細 → 時間外・深夜・休日の時間と手当が載っているか、時間の合計が勤務の記録と合うかを見る
- 相談先 → 分からないときは、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に相談する

未払いの賃金を請求できる期間には時効があります。労働基準法115条と附則143条3項で、賃金(退職手当を除く)の請求権は「行使することができる時から三年間」とされています(本則は5年で、当分の間は3年)。気になる点があれば、早めに確かめてください。
副業などで2つの職場で働く場合の労働時間の通算については、タクシー運転手のアルバイトと副業の記事に書いています。
この記事で訂正したこと
旧版のこの記事と、統合した残業代の記事(2020年に公開)には、2024年4月の改正前の数字や、根拠を示せない書き方が含まれていました。いまの事実と並べます。
| 以前の版の記述 | いまの事実 |
|---|---|
| 日勤は1日原則13時間、やむをえない場合16時間 | 1日13時間、延長しても最大15時間。14時間超は週3回までが目安(2024年4月1日から) |
| 日勤の拘束時間は1か月299時間 | 1か月288時間。車庫待ち等は労使協定で300時間まで |
| 隔日勤務は1日21時間 | 2暦日で22時間、2回の隔日勤務の平均で21時間 |
| 休息期間は日勤8時間、隔勤・車庫待ち20時間 | 日勤は継続11時間を基本・9時間を下回らない。隔勤は継続24時間を基本・22時間を下回らない。車庫待ち等の日勤で最大拘束時間を超える勤務は、勤務終了後に継続20時間以上 |
| 休日は隔勤44時間、日勤32時間 | 隔勤46時間(22時間+24時間)、日勤33時間(9時間+24時間)。どんな場合も30時間以上 |
| 車庫待ち等は日勤322時間、隔勤は延長なし | 日勤300時間(労使協定)。隔勤は労使協定で270時間、要件を満たせば10時間の延長と2暦日24時間まで |
| タクシーは1日8時間を超えても週40時間までは残業にならない | 1か月単位の変形労働時間制などを採っている場合の話。採っていなければ1日8時間を超えた時間は時間外 |
| 拘束時間の範囲内なら36協定で残業できる | 2024年4月1日からは特別条項でも年960時間以内。時間外・休日労働で最大拘束時間と月の拘束時間を超えてもいけない |
| 東京の最低賃金は1,013円(2020年7月) | 令和7年度の東京は1,226円(令和7年10月3日発効) |
| 最高裁は給与体系を違法とした | 判決は、売上から残業手当を差し引く賃金規則のもとでは「割増賃金が支払われたとはいえない」として高裁に差し戻したもの |
| 参考リンク(kisoku.jp) | リンクが切れていたため、裁判所の判決ページに差し替え |
旧版の残業代の記事には、1か月299時間の拘束から休憩を引いた時間を全部働いた時間とみなし、当時の最低賃金で給料を計算した例がありました。前提の数字が今は違ううえ、実際の賃金の目安にもならないため、東京労働局の歩合給の計算例に置き換えています。

よくある質問
タクシー運転手の残業は月に何時間までですか
36協定の限度時間は月45時間・年360時間です。臨時の事情で特別条項をつけた場合は、2024年4月1日から年960時間まで(月にならすと80時間)。一般の業務にある月100時間未満の決まりはタクシーにはかかりませんが、改善基準告示の拘束時間(日勤は月288時間、隔日勤務は月262時間)を超えることはできません。
36協定がない会社で残業させられたら違法ですか
労働基準法36条は、過半数の労働組合または過半数を代表する人と書面で協定し、労働基準監督署に届け出た場合に残業と休日労働をさせられるとしています。協定と届出がなければ、原則として1日8時間・週40時間を超えて働かせることはできません。自分の職場の36協定は、掲示などで周知されているはずなので確かめてください。
歩合給でも残業代は出ますか
出ます。東京労働局の資料は「歩合給制であっても法定労働時間を超えて労働した場合は、その部分について割増賃金が必要です」と書いています。計算は、歩合の総額を残業した時間も含めた総労働時間で割り、0.25をかけて時間外の時間をかけます。
歩合給の残業代はなぜ0.25倍なのですか
歩合給は、残業した時間も含めた全部の時間の対価として払われていると考えるためです。本体の1.0はすでに歩合に入っているので、上乗せする割増の0.25の部分だけを払います。月給は所定労働時間の対価なので、残業した時間には1.25倍を払います。
月60時間を超えた残業の割増率は、中小のタクシー会社でも50%ですか
はい。月60時間を超えた部分の割増率50%以上は、2023年4月1日から中小企業にも適用されています。厚生労働省のリーフレットは「大企業、中小企業ともに50%」と書いています。
日勤と隔日勤務で、拘束時間の上限はどう違いますか
日勤は1か月288時間、1日13時間で最大15時間です。隔日勤務は1か月262時間(労使協定で1年に6か月まで270時間)、2暦日で22時間、2回の平均で21時間です。休息期間は日勤が継続11時間を基本・9時間以上、隔日勤務が継続24時間を基本・22時間以上です。
最高裁の判決で、タクシーの歩合給は違法になったのですか
違法と一律に決まったわけではありません。令和2年3月30日の判決は、売上から残業手当を差し引いて歩合給を出すその事案の賃金規則について「割増賃金が支払われたとはいえない」と判断し、高裁に差し戻したものです。決まった方法以外の手当で残業代を払うこと自体は直ちに違法ではないとも述べています。自分の会社に当てはまるかは、賃金規則の中身で決まります。
未払いの残業代はいつまで請求できますか
労働基準法115条と附則143条3項で、賃金(退職手当を除く)の請求権は当分の間、行使できる時から3年です。本則は5年ですが、当分の間は3年とされています。
ハイヤーも同じ決まりですか
36協定の特別条項の上限が年960時間なのはハイヤーも同じです。ただし改善基準告示の拘束時間の決まりはタクシーとは別で、この記事の日勤288時間などの数字はハイヤーには当てはまりません。
まとめ
タクシー運転手の残業は、36協定の上限と改善基準告示の拘束時間の上限の、両方の内側で決まります。
- 残業させるには36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要
- 限度時間は月45時間・年360時間。特別条項でも年960時間まで(2024年4月1日から)
- 日勤の拘束時間は月288時間・1日最大15時間、隔日勤務は月262時間・2暦日22時間
- 時間外・休日労働で、1日の最大拘束時間と1か月の拘束時間を超えてはならない
- 割増率は時間外25%、月60時間超50%(2023年4月から中小企業も)、休日35%、深夜25%
- 歩合給の残業代は、歩合の総額÷総労働時間×0.25×時間外の時間
- 最高裁 令和2年3月30日判決は、売上から残業手当を差し引く仕組みで「割増賃金が支払われたとはいえない」と判断
数字と制度は、ここに書いた2026年9月24日の時点のものです。自分の働き方が決まりの内側に収まっているかは、職場の36協定、就業規則、賃金規則、給与明細の4つで確かめられます。タクシーの仕事の良い面も含めて考えたい人は、タクシー運転手の魅力と大変なことの記事もあわせて読んでみてください。




